柳田国男と平田篤胤と咲−Saki−

『宮守女子の謎に迫る』のその7。今回がラストになります!これまでのまとめはこちらからどうぞ。
また、今回の考察の参考文献を下の記事でまとめてありますので、興味がある方はご覧ください。

宮守女子の謎に迫る 参考文献 - 私的素敵ジャンク

さて、今回は今までの簡単なまとめと番外編として宮守以外の事について少し触れていきたいと思います。
まずは、今回の考察を見て下さった方には心より感謝です。自分でも咲-Saki-について語ってるんだか民俗学の知識をひけらかしてるんだか、よくわからなくなってくるぐらい堅苦しい話ばかりしてた気がするんですが、いくつかの記事は好評だったみたいでうれしかったです。自分としても最初に調べ始めた時はここまでのボリュームになるとは思わなかったんですが、思いがけず民俗学の面白さと立先生の設定の奥深さに触れる事が出来て楽しい経験でした。


ところで、シロの記事の時にも少し触れましたが、今回の考察の中心となった『遠野物語』をはじめとする初期から中期にかけての柳田国男の著作の背後にあったのは「山人」という日本の先住民の存在を証明しようという情熱でした。*1この「山人」に対する情熱やマヨヒガやザシキワラシといった怪異などについて考える時に欠かすことの出来ない、柳田にとても大きな影響を与えた人物がいます。それが、江戸末期の著名な国学者である平田篤胤です。実はこの平田篤胤もまた咲-Saki-の設定に幾つか登場する人物で、今回の番外編ではこの平田篤胤咲-Saki-の繋がりについてちょこっと考えてみようと思います。

  • 永水女子と九州赤山はライバル校?

まず、最も重要な点は、永水女子のキーワードの1つ、「六女仙」について書かれた『霧島山幽境真語』が八田知紀という人物が平田篤胤に贈った書物である事です。*2

永水に関しては、あおいさんの永水女子と「天降女子」 : さくやこのはなとか白揚羽さんの考える咲 : 第十八回「霧島の巫女」などで書かれているように、基本的には日本神話のイメージがキャラクターに反映されていると考えるのが妥当と思われるんですが、simoponさんの【咲-Saki-謎】 神代小蒔は何者なのか ※4/30更新 - 咲-Saki-ほんだし -にも書かれているように、六女仙に関してだけは何故か平田国学の書物から用語が採用されています。

また、九州赤山高校の藤原利仙と永水女子高校の繋がりについても平田国学は見逃せないポイントですね。両校の場所を一度でも調べた事がある方なら既にご存知の事だと思うんですが、永水女子高校と九州赤山高校はどちらも霧島山の奥深くにあるという設定で、つまりこの2つの学校は全く同じ場所に存在する訳です。

どういった訳で、立先生がこの2校を咲-Saki-に登場させたのかはわかりませんが、重要なのはこの九州赤山と藤原利仙というキーワードは『神界物語』という書物から採用されており、この著者もまた平田門下生である事、そして彼はこの書物を書いたせいで平田家から破門され、『神界物語』も処分されてしまったらしいという事です。
こういった因縁がある事から考えると永水女子と九州赤山高校って間違いなく激しいライバル関係なんじゃないか…という気がするんですが、実際のところはどうなんでしょうね?気になる所です。*3

2/1:追記
利仙君さんより『神界物語』に関して詳しいコメントを頂いたので追記しておきます。利仙君さん、ありがとうございます。

平田の養子である鐵胤は最初『神界物語』の内容、特に利仙君の語る神仙の世界の話を非常に信用していました。しかし、ペリー来航のおりに利仙君は予言を外し、そのことから鐵胤は徐々に利仙君の神通力に疑問を持つようになります。
そして最終的には「狐狸妖怪の類」と断じ、『神界物語』の作者を破門、本自体は一部分を除いて処分しました。

補足は以上ですが、姫様がリセさんを完封したという劇中の顛末には、真正の神様vs偽の神様のような力関係が背景にあったのかもしれません。

偽の神様…だとちょっと藤原利仙ちゃんがかわいそうな気がしますが、確かに姫様との力関係を考える上では参考になりそうですね。

ちなみに、今回これらを調べている際に面白い記事を見つけました。それがとらっしゅのーと様の乙姫さまの「ご馳走」とは 〜浦島太郎、快楽の日々〜 from 『続浦嶋子伝』この記事です。かなりエロエロな内容なんですが、要は浦島太郎の話と絡めて『霧島山幽境真語』が紹介されていてこれらの話は仙人世界で仙女と交わる話であって、仙女との性愛行為は、神仙思想で伝わる気を取り入れて不老長寿を実現する「房中術」と考えるのが妥当なのではないか、との事です。
・・・とすると、です。

これって実は単にお祓いしてたんじゃなくて、実は房中術であんなことやこんなことをしてたんじゃ!?えっ、房中術は男女和合の道だから女同士じゃダメなんじゃないかって?iPS細胞は陰陽五行説すら凌駕する存在だから大丈夫!
というか、むしろ僕がかわりにぼうちゅ(ry

閑話休題。ここからは、かなり推測が入りますが平田篤胤にゆかりのある地が幾つか咲-Saki-の舞台に設定されているのでそちらを紹介します。
まず、平田篤胤の門人であり彼を経済的に支えた山崎篤利の縁もあってか、彼は一時期久伊豆神社内に一時的に住んでいたらしいんですが、その久伊豆神社があるのが埼玉県越谷市です。

次に、長野県県大会後に4校合同合宿が岐阜県中津川市で行われましたが、その際に舞台の1つとして登場した場所が馬籠宿です。

この地に生まれた有名な作家といえば島崎藤村ですが、彼が自分の父をモデルにこの真籠宿を舞台にした『夜明け前』という作品があります。実はこの作品もまた平田国学をメインテーマとしていて、詳細に平田学派について述べられているらしいです。

そして、最後に。平田篤胤柳田国男の両者に深く関わる場所が1つあります。それは平田没後、最も門下生が多かった場所として広く知られ、また松岡国男が婿養子として柳田国男となった柳田家が存在する場所、そして現在柳田国男館がある場所でもあります・・・その地域とは伊那谷といいます。
そして、この伊那谷にあるとされる学校で現在咲-Saki-の全国大会に参加しているのが

長野県代表であり主人公の宮永咲が在籍する清澄高校です。
咲-Saki-の前作フェイタライザーでも舞台となったように立先生は非常に長野に思い入れがあるみたいですが、こんな所からも長野との繋がりが見えたりします。ひょっとして咲-Saki-が始まった時点で清澄が宮守や永水と対戦するのは決められていたのかもしれないですね。

  • おわりに

どこまで意図的かはともかくとして、柳田や平田から咲-Saki-の色々なものへの繋がりが見えるという話でした。ただ、実際咲-Saki-において「山」がキーワードになるケースってすごく多いと思うんですよ。
まず、本編の主役清澄高校のある長野県と、外伝の主人公の阿知賀女子高校はどちらも内陸県です。そして、本編の主人公の宮永咲の必殺技である嶺上開花は「山の上で花が咲く」という意味。外伝の主人公の高鴨穏乃はいつも吉野の山に遊びに行く元気少女でした。そして、最終話では修験道にまつわる「深山幽谷の化身」「深い山の主」と描写された山にまつわる能力がお披露目されました。
全国の出場校においても、宮守と永水は先程述べたように、「山人」というキーワードで繋がっているどちらも山奥にある学校ですし、準決勝には有珠山高校が登場しました。

つまり、東京と大阪の名門校を除く印象的な高校のほとんどが山にゆかりのある学校のようです。これって中々面白い事実だと思いませんか?
これは単に立先生が山が好きなだけなのか、それともこれらの背景には更なる隠された設定があるのか・・・実に気になる点ですね。


という所で、この『宮守女子の謎に迫る』シリーズはおしまいになります。今まで見てくれた方へ、改めてありがとうございましたm(_ _)m

*1:時代を経るにつれて柳田は「山人」について語らなくなり、後期の彼の著作は専ら「常人」についてになるんですが

*2:なので、厳密には篤胤の著作ではないんですが、平田篤胤選集などには収録されていますし、彼の幽冥界に関する著作の一つとして位置づけられているみたいですね

*3:もう1つ、『霧島山幽境真語』と『神界物語』の両方が岩波文庫において『遠野物語』と一緒に収録されている『山の人生』という論文の中で言及されているというのも興味深い点ですね