元ネタから見る穏乃と怜=竜華のライバル関係(※4月8日は園城寺で竜華会が執り行われる日です)

タイトルにも書きましたが、本日4月8日は釈迦の生誕を祝う灌仏会、別名竜華会(りゅうげえ)を園城寺など全国のお寺で執り行う日です。

枕神とは夢の中に現れて神託を告げる神である、これは竜華の名前の元になったと思われる竜華会からヒントを得ていると思われる。
竜華会とは灌仏会の異称で、園城寺で執り行われる灌仏会が竜華会である。
灌仏会・・・花祭り、釈迦(ゴータマ・シッダッタ)誕生を祝う仏教行事

釈迦の誕生を新たなる神の誕生として、枕神となったと思われる。
また竜華と怜は新たなる絆を悟った、離れていても心は何時も一緒だよと。
遊び半分 竜華会とは仏教行事

詳しくはこちらの素晴らしいかなでさんの記事をご覧ください。竜華会で検索してみると、

滋賀県大津の園城寺(おんじょうじ)で、弥勒菩薩(みろくぼさつ)を本尊として修する法会。
竜華会(りゅうげえ)とは - コトバンク

とほぼ必ず園城寺の名前がセットで出てくるのでなんでかなーと思ってたんですが、仏教用語辞典なんかをパラパラとめくってみたらどうやらこの「弥勒菩薩(みろくぼさつ)を本尊として修する法会」を日本で一番最初に執り行ったのが園城寺だからみたいですね。あるいは、園城寺の竜華会は他と違う何かがあったのかもしれないんですがそこら辺はあまりよくわからなかったです。
また、竜華会は竜華三会の別称でもあります。竜華三会というのは

釈迦入滅後五十六億七千万年の後,弥勒菩薩がこの世界に現れ,竜華樹の下で悟りを開き,衆生(しゆじよう)のために三度法会を開いて,釈迦の教化にもれたものを救うこと。弥勒三会。慈尊三会。竜華会(りゆうげえ)。竜華。
竜華三会(リュウゲサンエ)とは - コトバンク

とあって、より正確には釈迦というよりこの弥勒菩薩が枕神怜ちゃんの元ネタでしょうね。上に書いてあるように弥勒菩薩園城寺の本尊ですし、他にも怜や竜華に当てはまる部分が多いので。*1
多分、この辺のより詳しい事はさくやこのはなのあおいさんがその内書いてくださると思うので、これ以上は触れません。(お任せ)とりあえずは、枕神怜ちゃんの能力発動のきっかけとなったこの回想シーンはきっと今日、4月8日の出来事なんじゃないかなーと思います。怜と竜華の絆は100年どころじゃない、56億7000万年の絆なんです、きっと!

個人的に千里山は大阪の学校なのに滋賀にある園城寺から元ネタを採用したのがちょっと不思議だったんですが…。ただ、2人にこのような元ネタがある理由の1つには園城寺、そして弥勒菩薩が穏乃と深い関わりがあるからじゃないかと思います。という事で、最終回に明らかになった穏乃の能力の元ネタについておさらいしてみようと思います。

穏乃の能力についてはかなり衝撃的だった為かたくさんの人が既に語っていますが、まずはその中で元ネタ考察に関わりがあるものとして幾つかの考察を紹介します。

【バレアリ】咲-Saki-阿知賀編最終話「軌跡」穏乃、権現様を感得する。: つれづれなるままに
深山幽谷の化身って?(阿知賀編ネタバレあり) : さくやこのはな
阿知賀とお花見について : ああ、あの牌?

このように穏乃の元ネタには蔵王権現役行者、金峯山、大峯奥駈道などのキーワードが挙げられる訳ですが実はこれらは全て園城寺、そして弥勒菩薩にも深い関わりがあります。

まず、園城寺は別名を三井寺とも言いますが、これは園城寺のHPによれば

三井寺と呼ばれるようになったのは、天智・天武・持統天皇の三帝の誕生の際に 御産湯に用いられたという霊泉があり「御井の寺」と呼ばれていたものを後に 智証大師円珍が当時の厳義・三部潅頂の法儀に用いたことに由来します。
三井寺>三井寺について

とあります。この智証大師円珍天台寺門宗の宗祖であり今の園城寺はこの人無くしてはありえないのですが、この円珍役行者を慕って熊野で山岳修行を行い、やがてここから熊野を拠点とした修験道の一派である本山派が誕生します。大峯奥駈道には熊野から吉野に向かうルートと吉野から熊野に向かうルートの2つがあって前者を順峯、後者を逆峯といいますが、この順峯を修行ルートとしたのが本山派でその中心となったお寺が園城寺なんですね。
ちなみに、逆峯を修行ルートとしたのは当山派と呼ばれる一派でこちらは金峯山を拠点としていました。教義が異なる両者はライバル関係にあった事は想像に難くないですが、ここからも千里山(本山派=園城寺)と阿知賀(当山派=金峯山)のライバル関係という構図を見い出せますね。

また、日本における弥勒信仰には末法思想が深く関わっています。実は末法思想が広まった平安末期に弥勒浄土の場所として位置づけられていたのが金峯山でした。元々、金峯山は中国から飛来したユートピアの地と考えられていて、これが末法思想の流行と共に弥勒浄土に変容したらしいです。
当時の貴族にとって金峯山の参詣は非常に重要な宗教行事であって多くの貴族が金峯山を訪れましたが、その中で特に有名なのが藤原道長の登山です。藤原道長はこの参詣の際に弥勒菩薩が下生する際に参会し成仏する為に、大峯山寺にお経を埋めます。*2
実はこの大峯山寺は山上蔵王堂とも呼ばれていて、かつては金峯山寺と同じ1つのお寺だったんですね。言うまでもない事ですが、穏乃の後ろの炎は金峯山寺などに所蔵される蔵王権現像が元ネタだと考えられています。

そして、この蔵王権現像は釈迦如来(過去世)、千手観音(現在世)、弥勒菩薩(未来世)の三尊が権化したものと考えられています。蔵王権現役行者の修行中に示現したものとされてますが、このお話のレパートリーの中には役行者は修行中に釈迦如来、千手観音、弥勒菩薩の三尊を呼び出したけどこれに満足せず、最後に呼び出したのが蔵王権現である、というストーリ―のものがあります。*3
このお話から、弥勒菩薩を元ネタとした枕神怜ちゃんを従えた竜華に、蔵王権現を元ネタとした穏乃が勝利するという阿知賀編の結末を重ねる事も出来るんじゃないかなーと思います。

このように、穏乃と怜=竜華は元ネタを通して見ると実は非常に深い繋がりがあるんですよね。阿知賀編において千里山が阿知賀のライバルと位置付けられているのはストーリー上だけでなく、ここからも読み解く事が出来ると思います。
また、はっきりと書かれていた訳ではないんですけど、金峯山における蔵王権現弥勒浄土(弥勒菩薩)は、金峯山が聖なる山として古代から信仰されてきた事に由来する異なる2つの側面なんでしょうね。


参考文献

世界遺産 吉野・高野・熊野をゆく 霊場と参詣の道 (朝日選書)

世界遺産 吉野・高野・熊野をゆく 霊場と参詣の道 (朝日選書)

役行者と修験道の歴史 (歴史文化ライブラリー)

役行者と修験道の歴史 (歴史文化ライブラリー)

三井寺(天台寺門宗総本山園城寺)
金峯山修験本宗 総本山金峯山寺
仏教の勉強室 資料篇 弥勒菩薩
京都国立博物館 特別展覧会金峯山埋経一千年記念 藤原道長―極めた栄華・願った浄土―

*1:ちなみに、まっっったく関係ない話なんですけど、『SWAN SONG』というエロゲーに乃木 妙子というキャラクターがいるんですが、彼女は予知能力を持っていて「竜華樹」という名前で新興宗教に奉られてるんですよね。かなり前にプレイしたゲームなのでこの設定を全く覚えてなかったんですが、今回調べてる内にこの事を思い出して結構びっくりしました。中々きついシナリオなんですけど、1度プレイしてみる価値はあるゲームだと思います。

*2:世界遺産 吉野・高野・熊野をゆく 霊場と参詣の道』著:小山 靖憲 p.44,45、京都国立博物館 特別展覧会金峯山埋経一千年記念 藤原道長―極めた栄華・願った浄土―の紹介文より一部引用

*3:役行者修験道の歴史』著:宮家準 p.82より。このお話が収められている書物は『金峰山秘密伝』の中の「役小角伝」です。