「愛宕」という名字に隠された意味について考えてみます

今回は愛宕姉妹、特に洋榎ちゃんをメインに考察をしてみようと思います。洋榎ちゃんは咲-Saki-ブロガーやなんJ好きの人の人気が特に高い印象ですね。
ちなみに、今回のお話を端的にまとめると以下の2点になります。

    1. 洋榎ちゃんのイメージには愛宕神社にまつわる数々の神様の性質が反映されている
    2. 愛宕姉妹と胡桃ちゃんと塞さんが対戦した理由の1つはメタ的にも繋がりが存在するから

それでは、今回も長いお話ですが、よろしければお付き合いください。

  • 愛宕」という名字から連想される洋榎ちゃんとの共通点

さて、愛宕姉妹について考える時にまず誰もが思いつくであろう事はやっぱり彼女の名字に注目してみる事ですよね。愛宕といえば、愛宕神社。全国に900ほどあるそうで、皆さんのご近所にもあるかもしれないですね。そして、その愛宕神社の総本社が京都の愛宕山にある愛宕神社で、愛宕さんの愛称で親しまれているそうです。という事で、今回は愛宕さんについて咲-Saki-と何か繋がりが見えないか考えてみようと思います。

まず、一般的に最もよく知られる愛宕神社の御利益といえば「火迺要慎」(ひのようじん)のお札です。愛宕さんは火伏せの神様として親しまれているんですが、その理由は愛宕神社の祭神の1つである火の神様カグツチに由来します。このカグツチイザナギイザナミの間に生まれた神様なんですが、火の神様だったために出産の時にイザナミは火傷を負ってしまって、これが原因で亡くなってしまいます。
このエピソードからカグツチは熱子、仇子と呼ばれ、これが今の愛宕の名前に変化したと一般的に考えられているんですね。

また、中世に神仏習合が進むと多くの山伏愛宕山に修行に訪れるようになります。その為に愛宕山は天狗が住む山とされ、ここから愛宕神社奥の院の祭神に天狗太郎坊というのが祀られていると考えられるようになります。この天狗太郎坊というのは日本一の大天狗とも呼ばれ、数多くの文献にも登場するそうです。
ちなみにその文献の一つ、『源平盛衰記』において愛宕山の天狗に太郎坊という名前が初めてつけられると思われるのですが、それは後白河法皇住吉明神が問答をしている…というシーンなのだそうです。住吉明神住吉神社で祀られている神様ですが、その住吉神社の総本山が住吉大社で、この神社は姫松高校があると思われる場所のすぐ近くだったりします。偶然かもしれないですが、これも面白い一致ですね。*1

そして同じように本殿の祭神としてイザナミが祀られていたんですが、これも神仏習合修験道の影響を受けて愛宕権現というイザナミ地蔵菩薩が一つになった神様が誕生します。この愛宕権現本地仏として本殿に祀られるようになるのが勝軍(将軍)地蔵というんですが、地蔵という名前なのに馬に乗って甲冑を身につけてるっていうなんだかすごいお地蔵様なんです。
このお地蔵様は元々は坂上田村麻呂の東征にまつわるエピソードの中で誕生するんですが、やがて坂上田村麻呂の名声と「勝軍」の響きから愛宕権現は戦の勝利をもたらす神様として戦国時代にかけて武将の間で信仰が広まっていきます。
戦国武将の主なエピソードとしては明智光秀本能寺の変の直前に愛宕山に参詣したとか、徳川家康関ヶ原の戦いの勝利を記念して愛宕神社を江戸に勧請したとか、直江兼続の兜の愛という字は愛宕に由来するんじゃないかとか実に色々あるんですねー。


さて、ここまで愛宕神社にまつわるお話を幾つか紹介しましたが…これってどれも洋榎ちゃんのキャラクターや麻雀の打ち筋を連想させるものだと思いませんか?

まずは、「火伏」。これは麻雀に置き換えてみると失点を防ぐ、つまり振り込みを回避する意味と考える事が出来ます。

2回戦で洋榎ちゃんは上埜さんの悪待ちをことごとく回避しました。また、聴牌気配を感じさせないはずの胡桃ちゃんの聴牌にも気付いている節があります。
以前、僕は胡桃ちゃんの考察で彼女が聴牌気配を感じさせないのはザシキワラシにまつわる能力だからと考えました。とすると、どうしてその能力があるにも関わらず、洋榎ちゃんはその気配に気付く事が出来たのかが疑問だったんですが、その理由の1つが彼女がこのような特性*2を持っているからではないかと思える訳ですね。(考えられるもう1つの理由は後述)

次に「勝軍」の場合は公式戦で常にプラスの成績というのが真っ先に思い浮かびます。

また、勝つんだから負ける試合しか参考にしないというのも実に勝利をもたらす神様っぽくていいですよね。

ちなみに、常にプラスという意味では洋榎ちゃんだけじゃなく、妹の絹ちゃんもいとこの船Qも今の所は今回の公式戦は全てプラスですね。

最後に天狗といえば、やはり彼女のあの自信たっぷりな性格が思い浮かびますね。

それに、彼女の赤い髪は天狗と火伏の神様の両方から連想する事が出来ます。

もちろん、これまで洋榎ちゃんになんらかの能力があるような描写は全くないのでここから彼女が能力者であると主張するつもりは全くないんですが、洋榎ちゃんには愛宕さんのご加護があるんじゃないかと思えるぐらいには共通点があるような気がしますね。

  • 愛宕」という名字から考える2回戦の対戦相手の隠された繋がり

という事で、ここまで洋榎ちゃんについてばかり考えてみましたが、ここからは絹ちゃんも含めた愛宕姉妹について考えてみようと思います。といっても、洋榎ちゃんと絹ちゃんの間になんらかの繋がりがあるというお話ではなく、2回戦との対戦相手との繋がりについてです。

実は現在、愛宕神社は東北地方に特に多いそうです。そして、2回戦の対戦相手で東北にある学校といえば岩手の宮守女子高校ですね。実際に宮守女子のキャラクターの元ネタとしてこのブログでも何度も取り上げた『遠野物語』でも愛宕様が和尚の姿になって家事を消火したというお話があります。*3
そして、その中で絹ちゃんの対戦相手である副将の塞さんの元ネタは塞の神といわれていますが…実は愛宕権現もまた塞の神の性質を持つ神様なのです。
勝軍地蔵は幽冥界と現世との境界に立って人々を守る菩薩でもあってそれ故に、都の国境である愛宕山に勝軍地蔵を祀って外から侵入する悪霊なんかを防ごうとしたらしいんです。
また、遠野にある愛宕神社は遠野の境にあって実際に塞の神として悪いモノが遠野の中に入ってくるのを防ぐ役割を果たしていましたし、更にこちらの考察で紹介した盛岡の三ツ石神社のすぐ側には愛宕山という山がありますが、ここにも盛岡城の鬼門守護のために寛永十五年に盛岡藩三代藩主南部重直によって愛宕神社が造営されたという事実があります。実際、2回戦副将戦において塞さんと絹ちゃんの二人は、はっちゃんの能力が発動するのを防ぐ為に奮闘していた訳ですが、これもまたきちんとこのような試合展開に則って元ネタが考えられている事がよくわかりますね。

更に、洋榎ちゃんの対戦相手は中堅の胡桃ちゃんですが、胡桃ちゃんの元ネタと僕が考えているザシキワラシもまた火事を防ぐ力を持つ神様と考えられていたんです。
これはあまりザシキワラシの特徴としてはあまり知られていないものだと思うんですが、実際に佐々木喜善の『奥州のザシキワラシの話』にはこの手の話が幾つか収録されていますし、何よりこの『奥州のザシキワラシの話』の書評を柳田国男は『妖怪談義』のザシキワラシの項に収録していてその中に

ザシキワラシが時として火事の前触をすると言ひ、或は又此災を防ぐ力があると迄思はれたらしいのも、曾ては火を怖れた人が之を祀つた名残であつて、乃ち此怪物の由つて来る所を暗示するのかも知れぬ。

という文章があるように、柳田はザシキワラシと火伏を結びつけて考えていました。
ちなみに、先程の胡桃ちゃんの聴牌気配をどうして洋榎ちゃんが気付く事が出来たのかの考えられるもう1つの理由がこの同じ性質を持っているから、という理由になります。


このように考えると、愛宕姉妹の宮守の対戦相手は見事に愛宕さんと同様の性質を持っている神様を元ネタとした胡桃ちゃんと塞さんと対戦している訳です。これは意図的にしろ、偶然にしろ中々すごい事だと思いませんか?

*1:天狗太郎坊に関するより詳しい説明はこちらをどうぞ愛宕山の太郎坊天狗について1.いつから「太郎坊」という名が付いたのか。2.なぜ日本一の大天狗と呼ばれ... | レファレンス協同データベース

*2:能力と呼んでしまうのは語弊があるのでここでは仮に特性と呼ばせてもらいます

*3:遠野物語拾遺』 64話