小瀬川白望とマヨヒガについて

今回の記事は『宮守女子の謎に迫る』のその2になります。その1はこちらです。

さて、今回から宮守女子の各キャラクターについて順番に調べていきますが、まず最初にいくつか断っておく事が。今さらすぎる注意点ではありますが

  • 今回調べた事はあくまで考察の1つであってもちろんの事ですが実際に小林立先生がそう考えていたかどうかはわかりません。なので、信じるかどうかは皆さんの判断にお任せします。
  • 一応ちゃんと調べたつもりですが素人調べなんで間違いもあると思います。もし、『遠野物語』や民俗学について詳しい方がいたらそのあたりばんばん指摘してくれると助かります。

後は、コメント欄にでも「こうも考えられない?」とか意見もくれるとうれしいです。色々な見方がある方が楽しいですしね〜。

それでは今回の記事は先鋒のシロこと小瀬川白望についてです。いつもダルいダルい言いながら他のみんなをさりげなく気にしてる宮守女子の精神的支柱ですよね。部長と並ぶ咲-Saki-界屈指のモテモテキャラでもあります。


  • 名前の由来

まず名字の小瀬川については恐らく岩手県にかつてあった小瀬川村が由来ですね。小瀬川村などが合併して誕生した花巻市に同じ名字の方が多いそうなので、たぶん間違いないかと。
名前の白望については『遠野物語』にも数多く登場する白望(白見)山から。

遠野物語』でマヨヒガは63話、64話に登場です。青空文庫から63話を引用してみます。

六三
 小国(おぐに)の三浦某というは村一の金持(かねもち)なり。今より二三代前の主人、まだ家は貧しくして、妻は少しく魯鈍(ろどん)なりき。この妻ある日門(かど)の前(まえ)を流るる小さき川に沿いて蕗(ふき)を採(と)りに入りしに、よき物少なければ次第に谷奥深く登りたり。さてふと見れば立派なる黒き門(もん)の家あり。訝(いぶか)しけれど門の中に入りて見るに、大なる庭にて紅白の花一面に咲き鶏(にわとり)多く遊べり。その庭を裏(うら)の方へ廻(まわ)れば、牛小屋ありて牛多くおり、馬舎(うまや)ありて馬多くおれども、一向に人はおらず。ついに玄関より上(あが)りたるに、その次の間には朱と黒との膳椀(ぜんわん)をあまた取り出したり。奥の座敷には火鉢(ひばち)ありて鉄瓶(てつびん)の湯のたぎれるを見たり。されどもついに人影はなければ、もしや山男の家ではないかと急に恐ろしくなり、駆(か)け出(だ)して家に帰りたり。この事を人に語れども実(まこと)と思う者もなかりしが、また或る日わが家のカドに出でて物を洗いてありしに、川上より赤き椀一つ流れてきたり。あまり美しければ拾い上げたれど、これを食器に用いたらば汚(きたな)しと人に叱(しか)られんかと思い、ケセネギツの中に置きてケセネを量(はか)る器(うつわ)となしたり。しかるにこの器にて量り始めてより、いつまで経(た)ちてもケセネ尽きず。家の者もこれを怪しみて女に問いたるとき、始めて川より拾い上げし由(よし)をば語りぬ。この家はこれより幸運に向い、ついに今の三浦家となれり。遠野にては山中の不思議(ふしぎ)なる家をマヨイガという。マヨイガに行き当りたる者は、必ずその家の内の什器(じゅうき)家畜何にてもあれ持ち出でて来べきものなり。その人に授(さず)けんがためにかかる家をば見するなり。女が無慾にて何ものをも盗み来ざりしが故に、この椀自ら流れて来たりしなるべしといえり。

もう片方の64話の場合、展開はほぼ同じなんですが、この時は既にマヨヒガの噂が村中に広まっていたので同じように逃げ帰った男に対して
「それはマヨヒガだよ!何か一つでも物を持ちかえれば大金持ちになれたのに!!」
と家族に言われ、慌てて大勢の人と共にもう1度その場所に戻ろうとするも、マヨヒガは2度と見つかる事はなかった…という結末になってます。
また、マヨヒガは迷ひ家とも書きます。たまたま迷い入る事でしかその家にはたどり着けない、自分から行く事は出来ないって事ですね。後、このお話だとわからないんですが、マヨヒガは先述の白望山に存在すると伝わっています。それと咲-Saki-95局[形代]での霞さんの

この発言からシロ=マヨヒガと考えられている訳ですね。

ちなみに、マヨヒガという言葉は『遠野物語』の影響で広く世に知られる事となりましたが、実はマヨヒガという言葉自体はあまり地元では耳にしない言葉のようです。それでは、なぜ『遠野物語』ではマヨヒガという言葉が使われたかというと、これは柳田国男に遠野の昔話を語った佐々木喜善が作り出した言葉らしいです(この人については胡桃ちゃんの時に詳しく説明します。)。一般的には隠れ里伝説の1種に位置付けられます。
後は、じゃあそもそもマヨヒガってなんなのかについてなんですが、柳田はこれを「椀貸伝説」の1種として分類しました。他には、白望山がある金沢村は金の産出地として有名で『遠野物語』の中には、白望山の奥地で金の樋と杓を見つけた、なんていう話もあります。*1そして、「椀貸伝説」においては木地屋、金のお話ではそれを掘る鉱山師みたいな人たちが山の中にいて、その人たちの暮らしは『遠野物語』の語り手である農民たちとは全く違った生活を送っていました。だから、こういった人たちの幻想や一種の憧れみたいなものが一攫千金みたいなこれらのお話に繋がってくる訳です。

まぁ、このお話はシロとは全く関係ないんですが姉帯さんの元ネタといわれる山女についてもそうなんですが、初期の柳田国男の関心は専ら山人という日本人の先住民の存在を証明する事であり、『遠野物語』も含めてこの頃の彼の全ての著作の背景にはこの考えが色濃く流れている。よって、『遠野物語』は独立した作品ではなく初期の他の作品とリンクして考えるべきだ…という事だけをとりあえずは覚えていてください。これは塞さんについて考える時に重要なポイントなので。

  • 麻雀におけるマヨヒガ

固い話が続いてごめんなさい…。こっからは専らマヨヒガがシロのどんなシーンに反映されているかについてです。『遠野物語』に登場するマヨヒガのお話をまとめると

  1. マヨヒガにあるお椀なんかを1つでも持ち帰ればその家は裕福になれる
  2. マヨヒガにたどり着けるものは無欲な人間のみで、自分から求めたり欲があったりすると決してマヨヒガを見つける事は出来ない

という2つのポイントがあります。

それでは、まず麻雀においてのマヨヒガ。こちらは既に広く知られている事ですが

これですね。末原先輩が完璧に説明してくれてますが、「迷うと手が高くなる」という能力の事です。こちらは迷ひ家(マヨヒガ)の名前そのまんまです。

  • 日常シーンにおけるマヨヒガ


第92局[奇怪]の1シーン。クラスメートのお誘いをシロが断るただの日常風景…ですが、ここで先程のポイントマヨヒガにたどり着けるものは無欲な人間のみで、自分から求めたり欲がある人間だと決してマヨヒガにたどり着く事は出来ないという事を思い出してください。つまり、シロがいつもお昼のお誘いを断る…ここにもシロの元ネタがマヨヒガである事が窺えます。シロが自分からはさりげなく助けるけどいっつもだるいだるい言ってるのもこの事が関係してるのかもですね。

【夏コミ】だって小瀬川さんが私の誘い何度も断るから by つん on pixiv

  • まとめ

シロは唯一作中で元ネタがはっきりしてるだけあって謎はほとんどないですね。あえていえば、マヨヒガは実体がない幻なのでシロのキャラクター造形がどうやって生まれたのかがわからないぐらいかな?
それでは今回の記事はここまで!なんですが、思った以上に書いてみると長いですねこれ…。咲-Saki-と関係ない話が大半だし。しかも、次の胡桃ちゃんはこれよりずっと長くなりそうなんで、あらかじめ謝っときます。
ちなみに次回の胡桃ちゃんのメインテーマは、胡桃ちゃんの元ネタは本当にカクラサマなのか?になります。それでは。

*1:遠野物語』33話